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(越境する家族:下)「離婚後も父親は必要」 DV被害の日本人女性、帰国せず
出典:平成25年6月7日 朝日新聞
(越境する家族:下)「離婚後も父親は必要」 DV被害の日本人女性、帰国せず
=米・カリフォルニアからの報告=
=米・カリフォルニアからの報告=
夫婦が破綻(はたん)した後の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」。加盟によって、欧米に住む親たちからは、日本で暮らす子どもとの面会を求める声が高まりそうだ。親権を一方の親しか持たない日本と、親権にあたる監護権を父母が共有することが多い米国では、離婚後の親のかかわり方に大きな違いがある。米国・カリフォルニア州で、離婚後の面会交流の現場を見た。
「私にとってどんなにひどい夫でも、子どもたちにとっては父親なんだ」。サンディエゴで働く日本人女性(52)は、離婚から9年を経て、こう思うようになった。
日本で米国人の男性と結婚、1998年に渡米した。2人の子どもをもうけたが、夫と口論中に首を絞められ、シェルターに避難した。
2004年。娘が8歳、息子が4歳のときに離婚は成立したが、監護権でもめた。夫は子どもに暴力をふるったことはなく、裁判所は当初、監護権の割合を母60%、父40%と提案。女性が応じず、裁判は長引き、最終的に母98%、父2%で決着した。
子連れで日本へ帰ろうかと迷ったが、ある日、食卓で子どもたちの笑顔を見ながら思った。「もし2人が日本の学校になじめず、私が職探しに追われてかまってあげられなかったら、この笑顔を守れるだろうか」。悩んだ末、サンディエゴに残ることにした。
会わせたくない気持ちはあったが、父子の面会や、電話での交流は続けた。昨年、成長した2人を久しぶりに会わせた。心から笑う子どもたちを見て、肩の荷が下りた気がした。「この子たちの父親を捨てなくてよかったと思いました」
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米国の監護権は、日本の親権と似ているが、子どもの財産管理の権限が含まれない。子どもの利益を尊重する考え方が背景にあり、親は子の財産を勝手に処分できない。カリフォルニア州では離婚後も、両親が子どもの監護権を共有するのが原則だ。
夫から妻へ家庭内暴力(DV)があった場合でも、子どもに危害を加えていなければ、父子が面会を続けるケースは珍しくない。必要に応じて、裁判所が監視付きの面会を命じることもある。
NPO「コリアン・アメリカン家族サービスセンター」は今年1月から、日本語で監視付き面会を仲介するサービスを始めた。
妻へのDVで離婚した男性が子どもに会う場合は、妻子の居場所がわからないよう細心の注意を払う。子に暴力をふるった場合に備え、監視役がボタンを押せば、すぐに警察に通報できるようにしている。
同センターのヒュンミ・アンさんは、妻に暴力をふるって離婚した男性が、監視付きで子どもと面会を続けて2カ月後、監視なしで会えるようになった例もあると話す。
「子どもが大人になってから、家庭で暴力をふるう加害者になることもある。父の立ち直る姿や、離婚した両親が関係を修復する過程を見せることは、子の成長にもいい影響を与えるはずです」
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日本では昨年、離婚届に、未成年の子どもとの「面会交流」と「養育費の分担」について取り決めたか、任意でチェックする欄ができた。法務省によると、未成年の子どもがいる夫婦の離婚届約9万6千件(昨年4~12月)のうち、75%がこの欄にチェックを入れ、うち71%が「取り決めをしている」を選んだ。
一方、厚生労働省の調査(11年度)では、母子家庭の母親の51%が「(父子で)面会交流をしたことがない」、61%が「養育費を受けたことがない」と答えている。
日本では届けを出すだけの協議離婚が大半で、離婚時の取り決めを双方に守らせる制度は整っていない。子の養育計画を作り、裁判所に提出しなければならないカリフォルニア州とは対照的だ。
早稲田大学の棚村政行教授(家族法)は「条約への加盟をきっかけに、国内の法整備や、離婚後の親子支援をどうするかが問われる。子どもの利益を第一に考えた時、離婚後の親子関係はどうあるべきか、本質的な議論をするべきだ」と話している。
■「しつけ」と「虐待」、米の線引き紹介 現地NPO
日本で「しつけ」と許容されることが、米国では時に「虐待」と見なされる。日米の間には、育児文化の違いも横たわっている。
79年に設立されたNPO「リトル東京サービスセンター」は06年、アジア系の家族向けに、「虐待が疑われた家族の再統合プログラム」を始めた。文化の違いを知ってもらい、米国式の育児を伝えようと、週に1回の家庭訪問を半年から1年続けるプログラムだ。ロサンゼルス郡の児童局と連携する。
2年前、日本人の母親が、宿題を忘れた息子の手のひらを物差しでたたいた。息子が家から飛び出したところ、近所の人が警察に通報。「虐待した」として母親は逮捕され、3日間留置されたという。
「育児文化の違いから、平穏な家族が壊れてしまう例がある」と、プログラムを担当するソーシャルワーカー、ソ・キョンジュンさんは言う。このケースでも「目の前で母親が逮捕され、子どもは心に傷を負ってしまった」。
「互いに理解し合いながら、違いを乗り越えていかなければ」と話す。(杉原里美)
更新 2013-11-24 (日) 10:34:31
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